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ともいってすっごくいいともいます

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君の名を / 藤原


<言い訳>

これの続きというか裏の話です。
・この話はフィクションです。実際の球団などとは一切関係ありません。
・いろいろおかしいところはパワプロ補正と思って目をつぶってください。







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 なにか買っていきますか、と言われたので甘いものが食べたいと答えた。チョコレートでもない、プリンでもない、軽くてふわふわして甘いもの。今晩たべるならこれで決まりだな。シーズン中のプロ野球選手が真夜中に食べるものとして全く適当でないものを所望したボクに、友沢は眠気の混じった生返事をして通話を切った。通話を切った後もボクはしばらく携帯電話の画面を見ていた。
 果たして友沢はコンビニのビニール袋をがさがさ言わせながら帰って来たのだった。
 玄関を開けて、ボクたちは少しの間見つめ合った。夜にもまばゆい金色の髪の毛と、深い緑の眼。友沢だな、と思った。友沢もじっとボクを見つめて、それから少し視線をそらして、「猪狩さん」といった。
「疲れました」
 二週間ぶりに顔を合わせた、第一声がそれか。吹き出したのは二人同時だった。
「完封完投、おめでとーございます」
「いつの話だよ」
 昼からの試合を終えた直後、飛行機とタクシーを経由してここへ戻ってきた友沢は、さすがに疲れたらしく声がへろへろしていた。ボクだって今日ナイターがあったけれど、投げたのは三日も前なのでそれほど疲れていない。
 体でドアを支えるボクの横をすり抜けながら、友沢はボクの手にビニール袋をぽんと落とした。カギをかけ、担いだバットケースが突っかかってうまく靴が脱げないらしい友沢の横を今度はボクがすり抜けて、件のビニール袋の中に手を入れる。取り出した中身を見て、自分の瞳孔が開くのがわかった。甘くて軽い生クリームがふわふわのスポンジにくるまれた、プレミアムなロールケーキ。とてもおいしそうだ。さすが友沢。まさに、今日の夜にふさわしい。
「なんか食べるもんあります?」
「なんだ。まだ食べてないのか?」
「いや……食べましたけどちょっとつまみたいなって」
 何かあったかと考えて、そういえば昨日ミニトマトの酢漬けをつくったことを思い出した。ミニトマトの皮がつるっと剥けるのが面白かったので、たくさん作った。
 よくわからないが、つけものづくりに二人してはまって、やたらと作っていた。はくさいのゆず漬けに始まり、きゃべつとみょうがのしば漬け、きゅうりのからし漬け、かぶとわらびの浅漬けといったものを作って、冷蔵庫に置いておく。相手のカレンダーを見ながら、今日作ったら次のホーム戦で食べてもらえるな、とか、ずっと遠征しっぱなしだから一人で食べてしまおう、とか、そういうのを考えるのがなんだかよかった。
 というわけで、つけものは少しだけ得意なのである。



 友沢とこんな風になってから、もう随分たった。
 ボクと友沢は大卒と高卒でドラフトが同期だったこと、お互い目立つ存在であったこと、そして二人とも(ボクの方が完璧に上回ってはいるが)見目がよかったということから、やたらと二人セットで雑誌やテレビの取材を受けることが多かった。「実はなかよし!? 猪狩クン、友沢クンの意外な共通点(はあと)」などと寒気のするタイトルをつけられて女性をターゲットにしたスポーツ雑誌に載ったりした。それはまあ、別にどうでもよかった。どうでもよくなかったのは、その後の懇談会という名の飲み会で、酷く酩酊してしまったことだった。ボクは、これは大変不本意なことではあるが、お酒があんまり強くはない。強くはないだけで、弱いというわけではない、断じて。しかし、だましだまし頑張っていっしょうけんめい減らした半分くらいのグラスに、やだー全然飲んでないじゃないですかーとかなんとか言われながらビールを追加された次の瞬間から、記憶が吹っ飛んだ。もう全くなんにも覚えていない。闇だ。次にはっきりと記憶しているのは、知らない水色の枕だった。ボクのじゃない。はっとして飛び起きたら首元からぽさぽさとタオルが零れ落ちた。そうして目の前には、友沢がいた。友沢は完璧な無表情をして、
 一、昨晩のあなたは泥酔して歩行もままならなかった為、部屋が近くの自分が世話を頼まれました。
 二、吐くかもしれないと思ったから服は脱がせて、タオルを巻いています。
 三、お会計はエライ人が全部持ってくれたので大丈夫です。
 四、何か文句は?
 といったような内容のことを淡々と喋った。顔から火が出るとはこのことかと思った。沸騰したかのように頬が熱い。ボクは両手で顔を隠して、ありがとうとかすまないとか、ごにょごにょ言った気がする。恥ずかしすぎてこのあたりも記憶がない。
 その日はお互いオフだったので、友沢の作ってくれたお味噌汁を飲みながらぽつぽつと話をした。友沢の部屋は殺風景で、洗濯物がやや乱雑に干されていた。その中でも、無造作に転がされた、ぴかぴかのウエイトトレーニングセット一式が目に付いた。手を伸ばしたら、「それ、下の人にうるさいって言われて」と制された。下の人? ここは球団寮だとばかり思い込んでいたが、そういえば随分と一般環境の喧騒が聞こえてくる。
「キミ、寮じゃないのか」
「りょうですよ」

 とにかくその経験は、ボクのプライドをいたく傷つけた。ドラフトを争った、年下の、生意気な、他球団の奴に、だらしないところを見られあまつさえ手厚く介護されてしまったのである。これを屈辱と言わなくてなんといおう。不覚にもつくってしまった借りは何倍にもして返さなくてはならない。
 というわけでボクは一週間とまたずして友沢を食事に誘い、たらふくご馳走を味あわせ、都内でも最高級のランクを誇るホテルである「ロイヤルロマネスクIKARI」を模して造られた、ボクの住まうマンションに招待したのだった。
 始めの方こそ余裕ぶっていた友沢だったが、部屋に上がるあたりでは感嘆詞しか漏らさなくなったのでボクは満足した。もっと驚かせてやろうと、広い一室まるごとを使って設置したトレーニングルームを見せびらかし、いつでも使いに来ていいんだぞといったら本当にいつでも使いに来た。昼夜問わず来た。
「ちょっとキミ、すこしは遠慮ってものを覚えたらどうだい」
「オレは人の親切は最大限、受けるようにしてるんで」

 なるほどそうか。とボクは思った。

 友沢の持ち込んだぴかぴかのウエイトトレーニングセット一式が、ぴかぴかではなくなるころに、いろいろと面倒くさくなってきたのでスペアのカードキーを渡した。そのうち、「猪狩さんちからの方が球場に行きやすい」とかいう理由で(事実そうだった)、やたらと入り浸るようになり、友沢がレギュラーとして試合に出始めたころにはじめての接吻を交わし、友沢が二十歳の誕生日を迎えるころにボクたちは性交を行った。幾度目かの接吻ののち、友沢はすこしだけ唇を離して何事かを囁いた。ささやく吐息でくちびるが微かに震える。ボクは抵抗しなかった。友沢は、部屋に入り浸るようになった時と同じように、平然と、容赦なく侵入してきた。きっとこの手加減のなさがいいのだな、と思った。友沢はボクに対していつでも躊躇せず、率直である。
 それ以降ますます友沢は部屋に居つくようになり、友沢の私物がいたるところに散乱しだしたので、ボクは空き部屋の一室を友沢にあてがった。不便だと思ったことはないが、一人で住むには広かった。一人くらい同居人が増えたって、どうってことはないくらいには広い部屋だった。
 そうしてある日、友沢は「アパート解約したいんですけどいいですか」と言ってきた。なんとなく友沢は球団寮に住んでいるような気がしていたけれど、そういえば違っていたのだったか。
「キミ、寮じゃなかったっけ」
「りょうですよ」
 二回目だな、と思った。



 友沢はミニトマトの酢漬けをひとつ口の中に放り込んだのち、テレビのスイッチを付けた。ソファに座らず床に胡坐をかくのは友沢の常だった。ボクはきちんとソファに座って、友沢の買ってきてくれたロールケーキの包装を解いた。プラスチックの感触はぱりぱりしている。
 深夜のスポーツニュースは我が球団の快進撃を放送していた。ダントツの勝率、ダントツのゲーム差、もちろん今日の試合も勝利を収めた。現状、文句なしのリーグトップだ。
 友沢は黙って画面を食い入るように見ていた。そしてテレビ画面から視線を外さぬまま、呟いた。
「投げるんですか」
 友沢の、頭のてっぺんがそわそわしている。投げるんですか、とはもうすぐ始まる交流戦、西武との試合で、巨人の猪狩守が先発投手として出場することはあるのか? という意味だろう。それを正確に理解してボクは、どうだろうね、と答えた。ローテーションを決めるのはボクではない。
「でも、世間は見たいだろう。ボクと、キミの戦いを」
 友沢に、ではなく、遠くの監督に言い聞かせるようにしてボクは言った。ぱりぱりとプラスチックのトレイを鳴らしながらロールケーキをスプーンで崩した。軽やかな生クリームとふわふわのスポンジが、甘くて、おいしいな、と思った。友沢は、ミニトマトをもう二粒、箸でつまんで口の中にぽいぽいと入れていた。
「あんたの名前、書きましたよ」
 テレビの内容はすっかり海外サッカーに移り変わっていたのだったが友沢は視線を外さなかった。書きましたよ、というのはつまり毎年恒例の「交流戦ライバル宣言」にて、友沢亮が、戦いたい投手の欄にボクの名前をかいたということなんだろう。そうまたしても完璧に理解してボクは、フッと笑った。
 友沢の横顔が、真剣だった。今日の試合の、くすぶる熱の残滓が伝わってくる。ぞわぞわと泡立つ感触がする。それだけでボクは嬉しくなってしまう。
 すこうしだけ、ドラフトの時を思い出した。あの時からずっと、この男がボクの順風満帆の人生に影を落としている。じりじりと燻る心の奥底、焦燥にも似ている何か。
「あんたは誰の名前書いたんです」
 いつの間にか、友沢の顔が隣にあった。けだもののような目だと思った。18.44メートルの距離を一瞬にして縮めて、唇が重なった。甘くて微かに酸っぱくて、そうして燃えるような。
 名前は直接口移しで伝えた。こういうところが何より好きだと思う、野球をしている彼が。彼と自分が。甘い泥のぬかるみの中にあってなお平然と、容赦なく、手加減なんてしてやらない。
 (友沢亮と、猪狩守の対決を心待ちにしているというのは、世間だけではないということを知らしめてやろう)

 さあ、もうすぐ交流戦が幕を開ける。




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友猪っていいな(2回目)

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